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甲斐太さん-南国農園 (宮崎県綾町)

宮崎県綾町にある有機農家・南国農園 甲斐太さんの写真です
従業員のお二人とともに。真ん中が甲斐太さん。3人で2.5ヘクタール(ハウス1反)の圃場を耕作しています。ということは2.4ヘクタールが露地です。そして少量他品目。少量多品目は手間がかかって大変そうです。

・有機JAS取得はビジネスとして

 有機の町として名高い綾町。そんな綾町で「農業次世代人材投資資金」の給付を受けずに新規就農し、就農2年めで900万弱の売上をあげている南国農園さんを訪問してきました。

 

 南国農園の園主・甲斐太(かい ふとし)さんは39歳。東日本大震災のあと、父親が亡くなり宮崎に戻りました。しばらくは太陽光パネルの販売をやり、かなり売上を上げていたそうですが、震災時の原発事故の影響、被災地の食料のことなどの問題もあり、エコや有機に関心があった甲斐さんは、35歳のとき農業の道を進むことにしたのです。

 

 1年目は慣行栽培のきゅうり農家で、2年目はたんじゅん農法の山口農園で研修し、3年目に山口農園の近くの自然栽培の農家から8反の農地を買い上げ独立しました。農業経験は5年め、独立して3年め。大規模単作ではなく少量他品目栽培で農業を営んでいます。

 

 南国農園では山口農園さんで学んだ「たんじゅん農法」を実践していて、肥料は廃菌床とその他チップなどの炭素分のみ。上に置くのではなく、表層10センチ程度に撹拌しています。こういう具合に有機物を土中に直接入れてしまうと、微生物がその有機物を分解する際に周りにあるチッソ分を使ってしまい「チッソ飢餓」という症状がよく起きるため、作物に悪影響を与えます。しかしこの畑でチッソ飢餓は起きないそう。微生物が豊富な畑なのでしょう。

 

 「微生物ってすごいですよねー」と甲斐さん。

 

 慣行栽培をしていた畑を有機に変えると、当初病虫害が頻発する事が多いのですが、これは、化学肥料や農薬の影響で微生物相が貧弱になっていることが多いため。土に有機質肥料を入れても分解する力が足りないことが原因だと考えられています。甲斐さんが借りた畑は、もとの持ち主が自然栽培を実践していました。そのおかげもあって、微生物が豊富なのだろうと考えています。虫害はまだまだありますが、そんなに困ってはいないそうです。

 

 南国農園を始めて3年め、従業員は2人います。お給料もそれなりに支払えていると自負しています。2.5ヘクタールの畑(うち1反がハウス)を自分も含め3人で耕作していますが、このうちの1.7ヘクタールが有機JAS取得圃場です。

 

「僕の有機JAS取得は、純粋にビジネスです」と甲斐さんは言います。

「有機JASのメリットは、スーパーに営業に行く際に話が通じやすいこと。有機JASの野菜と言うと、担当者に話を聞いてもらいやすいんです」

 

 畑の前の持ち主が自然栽培だったため、耕作前の二年間の無化学肥料・無農薬期間という条件はその年から満たせました。有機JASはすぐに取得できたと甲斐さんは言います。売り先は県内のスーパーですが、ツテはまったくありませんでした。拠点の統括担当者に有機JAS取得野菜の営業に行き、系列のスーパー数店舗に置いてもらうことができました。売り先は順調に増えていきました。

 

「せっかく売り場に置いてもらえても、野菜がないと困るでしょう。だから、端境期ができるだけないよう、できるだけ周年で野菜が出せるよう、栽培品目を選択しています。季節を通じて5~6品は出せる態勢。スーパーで売るには、そういう努力が必要だと思います」

 

宮崎県綾町の南国農園さんの看板です
南国っぽい空に南国農園の看板。いいですねー。

・農業以外の経験を生かした営業力・判断力

 綾町の農産物直売所・ほんものセンターにも商品を置いていますが、最初は引退したお年寄り農家や趣味の園芸的な農家の価格破壊に困ったそうです。これは直売所で必ず起こることで、新規就農者が必ず突き当たる壁でもあります。しかし、他の人が出している時期に同じものを出すから価格が下るのだから、甲斐さんは、売られている野菜をよく見て「自分しか出せないもの」を出すことにしました。今ではそれなりの値段で売れているとのこと。

 

 最近は、ある大手スーパーから「出荷してみないか」と話が来ているそう。まとまれば大きな話になるため、これからの体制を考えています。県外の売り先を考えることもありますが、宮崎県という地理的な要因がネックです。

 

「送料が高いのと、関東に送るにはどうしても中一日かかってしまうんです。ネットで野菜販売を立ち上げようとしてるところなので、そのあたりをどう考えていくか、悩ましいところですよね」

 

 今後は畑を広げて従業員数も増やし、有機野菜を供給していきたい。売り先が広がれば畑も増やせる。そのためにもっと営業もしていきたい。甲斐さんの夢は大きく広がっています。

 

 研修していた山口農園さんの取り組みはすばらしいと思う反面、販売価格が安すぎると感じていました。初期費用がかかっている新規就農者はそれではやっていけません。だからこそ「有機JAS認証」というわかりやすいメリットが必要だと考えている甲斐さん。有機JASマークには「安心安全」や履歴がわかること以外に、「ビジネスとしてわかりやすい記号」という捉え方があるのだと、今さらながら気づかされました。今まで、とくに野菜農家に「有機JASに何のメリットがあるんだ」という話をよく聞いていたからです。

 

 柑橘類などの果樹類で「有機JASマーク」が営業的に非常にうまく機能する例がありますが、もしかしてこれからはそういう例が野菜でも増えるのか、そういう時代になったのかもしれません。そして今、有機農業界隈の方々のよくおっしゃる「有機が今来ている!」ということなのかもしれません。オーガニックの未来は明るい、そんな気がしてくるではありませんか。

 

 また、甲斐さんが選択している「たんじゅん農法=炭素循環農法」は農業技術として有効だとは思いますが、そもそもは思想的なものでもあります。甲斐さんはそれを実践しつつも、ビジネスとしてわかりやすい有機JAS認証を取得している、とてもバランスの取れた考え方ができる人なのだと感じました。また、営業がうまいことも特筆すべきことでしょう。営業の際の目のつけどころがすばらしく、これは農業以外の経験を持つ人が自らの経験をうまく活かしているいい例だとも言えます。

 

 甲斐さんは、昨今賛否両論ある「青年給付金」(現在は「農業次世代人材投資資金」)という制度を利用できませんでした。農業次世代人材投資資金とは、「準備型」と「経営開始型」の2種類があります。この制度ができた数年前は、有機農業を目指す&すでに取り組んでいる新規就農者に、申請した人は多くいました。

 

 当時「3年で300万の売上を上げられる事業計画を作成しろと厳しく言われている」と給付金を申請した新規就農者に聞いたことがありますが、自治体によっては厳密な事業計画書でなくとも給付された例がある、なんてことも聞き及んでいました。そして計画通りに行かず、給付金を生活費にあてるなどして失敗した人も多くいたそうです。とくに有機農業を目指した新規就農者に。

 

 というような事情があってか、綾町では「農業次世代人材投資資金」は有機農業よりも施設園芸や慣行栽培を目指す新規就農者に優先的に給付されているとのこと。税金を投入するのだから、成功すべき人に給付されるということでしょう。したがって、甲斐さんは「有機農業」ということで給付がむずかしく、自力でなんとかせざるを得なかったのです。

 

 綾町は暮らしやすい町ということもあり、農業を志しつつも半農半Xという業態を選択している人も多いそうですが、有機農業できちんと食べている農家を目指し、今後は規模の拡大ももくろんでいる新規参入者・南国農園・甲斐太さん。今後も応援していきたい生産者の一人です。

 

 

南国農園フェイスブック・ページ

https://www.facebook.com/nangokufarm/

WEBサイトは現在絶賛作成中だそうです。