冬のロゼット状に広がるほうれん草の写真

土の化学性


・土壌分析をやってみよう!

土の化学性は、土壌分析をすることで知ることができます。自分の畑の土壌バランスを知るための指針が土壌分析数値です。この数値を基に、作物が最もよく生育する肥料バランスを考えます。

土壌分析は、農業普及所や肥料メーカーなどに依頼して分析することができます。簡易分析もできなくはないのですが、数値に多少のブレが生じることがあります。分析項目は以下の項目について行うのが理想です。

 

土を分析機関に送ると、数値が送られてきます。ここまでは簡単ですが、むずかしいのが診断です。ときには必要のない資材を購入することになったり、さまざまな情報に惑わされたりすることがあるため、まず、自分自身である程度の診断ができるようになることが必要です。


・自分で診断してみよう

 CECの数値から、塩基類・窒素分の適正数値を計算することができます。面倒な場合はエクセルなどで計算式を入れてしまい、自動計算できるようにしてしまいましょう。その後、適正な施肥量、入れてはいけないものなどを検証します。春と秋、前作終了後には必ず土壌分析をして、数値を蓄積していきましょう。

 

・カルシウムの適正値  CEC×0.6(ハウスの場合は0.8)×5/8×28

・マグネシウムの適正値 CEC×0.6(ハウスの場合は0.8)×2/8×20

・カリウムの適正値   CEC×0.6(ハウスの場合は0.8)×1/8×47

・チッソの適正値    CEC×0.2×14



・土壌分析診断の例

2017年に借りた区民農園を分析しました。

上記の計算式どおり、適正値はCECから自動計算しています。CEC=土が肥料分を捕まえていられる土の「胃袋」のようなもの

 区民農園の土壌分析をすると、常にカルシウムがべらぼうに過剰です。今後いっさいカルシウム分を入れなくていいくらいの数値です。これは家庭菜園の本に「日本の土は酸性なので石灰を入れましょう」と書いてあるからでしょう。今までさまざまな生産者の分析数値を見てきましたが、カルシウム過剰でない畑はほとんどありませんでした。きちんと土壌分析して状態を知ることが必要だと思います。

土壌分析診断の書類の写真

・分析診断

・CECが非常に高い

 わたしが住んでいる地域は火山灰土なのか、CECが常に高く出ます。CECが高いと、肥料分もたくさん入れることができます。高すぎる場合は見かけのCECの可能性もあるため20で計算します。

・カルシウムとマグネシウムが過剰 とくにカルシウム

 家庭菜園の教科書通り、やみくもに皆が最初に苦土石灰を入れるからではないかと思います。この過剰では障害が出そうです。カルシウム・マグネシウムは入れる必要はありません。

・カリが不足

 足りない分を追加で入れます。有機のカリ肥料と言えば草木灰などですが、よぶんなカルシウム肥料が入るため、単肥の硫酸カリを施用します。硫酸カリは有機JASでは使えません。

・塩基飽和度が過剰

 露地栽培の塩基飽和度としては過剰なため、土は「もうおなかいっぱい」状態です。カリ肥料を入れるとますます過剰になるため、チッソ分を留めておけなくなり、流亡が予想されます。チッソ肥料の与え方に注意する必要があります。

・腐植が不足

 腐植は一朝一夕に数字を上げることができませんから、低いんだなーって感じでスルーです。腐植分が高ければ、CECも高いため、多収の畑と言えます。

・アンモニア態窒素と硝酸態窒素

 ふたつを合計すると、現在3.41kgのチッソ分があります。塩基飽和度が高いため、チッソ肥料の流亡が心配です。アミノ酸の状態で与えたいため、ボカシ肥料を使うことにします。

・リン酸が不足

 区民農園の土は常にリン酸吸収係数が高いため、リン酸を吸いにくい土です。リン酸肥料は多めに投入します。微生物が多ければいいのですが、それは期待できません。リン酸は有機だとバットグアノなどがありますが、よぶんなカルシウム分が入るため、単肥「ようりん」を与えます。ようりんは有機JASでは使用できません。

・ケイ酸

 ケイ酸はどんなに入っていてもかまわないため、気にしません。逆に、作物の耐病性が強くなるなどの報告があるため、露地の場合60以上の数値があることが理想です。足りない場合はケイカルなどで補充します。ケイカルは安価な資材ですが、効くのに半年以上かかるため、即効性を求める場合はソフトシリカを入れます。


土壌分析用語解説

CEC(塩基置換容量) CECとは土が持っている「プラスイオンを吸着できる最大量」のことを指します。わかりやすく言うと、土が肥料をためておける大きさの数値と考えるといいでしょう。数値が大きいほど、肥料を保持する能力がある土と言えます。露地栽培ではCEC20以上、施設栽培では30程度が理想になります。数値が低ければ低いほど保肥力が少なく、保持できる以上の肥料が投入されても流れて無駄になるばかりか、作物に障害を起こすなどのトラブルが起きてしまいます。適正なCEC値を目指しましょう。
 PH  通常Phは5.5~6.5程度が作物の生育が良いといわれます。なかにはPhの低い土壌・酸性土壌を好むもの(じゃがいも・ブルーベリー等)もあります。それぞれの作物に適したPhになっているかどうかを確認します。
腐植 土壌中の微生物の死骸や分解された植物の組織等々を指します。腐植は団粒構造を作るために必要なもので、数値が5以上であるのが理想です。化学肥料を多投してきて有機物を還元していない畑では極端に低い場合があります。腐植には、団粒構造の形成やCECを上げることなどの効果があります。
EC 電気伝導度のことをいいます。ECの数値を見て、土壌中の硝酸態窒素の数値を判断するのに使用されます。作物の生育がうまくいかない場合、ECメータで簡易的に測ることで、硝酸態窒素の数値を確認することができます。
アンモニア態窒素(NH4) 硝酸化性菌の働きで硝酸態窒素に変化し、作物に吸収される窒素分の一種です。硝酸態窒素に変化する前の形になります。
硝酸態窒素(NH3) 窒素分は、アンモニア態窒素から硝酸態窒素へ変わり、作物に吸収されます。土壌分析値のアンモニア態窒素と硝酸態窒素の残留値を見て、次の作の窒素分の計算を行います。硝酸態窒素は水に溶けやすいため、大量にある場合は濃度障害などを起こす可能性があります。
可給態リン酸 土壌中に含まれるリン酸のうち、作物が吸収可能なリン酸分のことを指します。
リン酸吸収係数 土壌100gが吸収するリン酸の量。リン酸吸収係数の数値が高いと、作物がリン酸を吸収しにくい土壌であるといえます。
ケイ酸 ケイ素と酸素が結合した物質で、土の中に60%~80%含まれています。とくに水稲では必須の成分で、倒伏防止や光合成の働きをよくする等の効果が知られています。ケイ酸の数値を分析してくれる分析機関はあまりありませんが、水田の土壌分析を行う際には、ケイ酸の数値を分析してもらうことが大切です。また昨今では畑作においても病害虫の抑制など、ケイ酸の有用性が述べられています。
置換性石灰 土壌コロイドの表面のマイナス電荷に吸着されているカルシウムのことを言います。一般的に日本の土壌は酸性土壌と言われますが、これは土壌中のカルシウムが雨水等で流されやすいことも原因のひとつと言えるでしょう。カルシウムとカリ・マグネシウムには拮抗作用があるため、カルシウム過剰の場合、カリ・マグネシウム欠乏症を引き起こしやすくなります。
置換性カリ 土壌コロイドの表面のマイナス電荷に吸着されているカリのことを言います。カリとマグネシウム・カルシウムには拮抗作用があるため、カリ分が高いとカルシウム及びマグネシウム欠乏症を引き起こしやすくなります。
置換性マグネシウム 土壌コロイドの表面のマイナス電荷に吸着されているマグネシウムのことを言います。マグネシウムとカリ・カルシウムには拮抗作用があります。

【置換性塩基とは】土壌粒子は、マイナスの電荷を持つ粘土鉱物や腐植物質を含んでいます。塩基は、プラスの電荷を持つので、土壌粒子に吸着・保持されます。吸着・保持されている塩基は、土壌溶液中の水素イオン(プラス電荷を持つ)と置き換わります。これを置換といいます。

置換された塩基は、溶け出して植物が利用できるようになります。このように土壌粒子に吸着・保持されていて、置換されて溶け出すことができる塩基を、置換性塩基といいます。上記の石灰・カリ・苦土のことを指します。