毎日10分、自分の畑を観察する
良い土を作るためには、物理性・生物性・化学性の3つのバランスを整えることが大切です。それらがどのようなものか、知識として持っておく必要もあります。しかしそれ以上に大切なもの。それが「観察力」、作物を見る目です。これは知識としてではなく、経験を積み上げることで培われるものです。
昔から「作物をうまく作るには、作物にあなたの足音を聞かせること」と言われてきました。自分の畑に足しげく通い、自分の栽培している作物の状態を見ることが、良い作物を作ることにつながります。しかし現在の農業は、いかに手間をはぶいて収量を上げるかの一点で効率化が図られています。生産者は、自分の作物をあまりじっくり見なくなっているのかもしれません。
農業とは土と自然に向き合う仕事。作物は動くことはできませんが、眺めているだけでいろいろなことを教えてくれます。それを読み取るのが人間の仕事。毎日作物を見ていれば、作物の姿形から土の中の状態を知ることもできるのです。
例えば早朝、畑に行ってみます。朝露に濡れた作物が新しい芽を伸ばそうとしています。この新しい芽の色は何色ですか? 黄緑色だったり緑色だったり、日々変わっているはずです。
・作物が語りかけてくる
例えば葉の形。45度の角度でしゅっと立っているか、地面にべたっとくっついているか。これら作物の姿と形、色合いに「偶然」はありません。きちんと理由があるのです。
新芽の色が淡い緑色ならば、土壌中のチッソ分が適正な証拠。濃い緑だとチッソ分を多く吸っています。前日に雨が降ったのか、もともとの施肥が多いのか。チッソが過剰な状態だと、病気や虫の原因になりますから、施肥量などを鑑みて、何か対策を打ってもいいかもしれません。
新芽の先が少し茶色く枯れていたらカルシウム欠乏症。石灰が畑に十分にある場合は、水分の不足が原因かもしれません。葉先のふちが白っぽく枯れてきたら、カリ欠乏症。カリは十分にあったはずなのに、なぜ効いていないのか。何か原因がありそうです。
毎日ほんの少しの時間でいい。じっくり観察していれば、作物があなたにいろんなことを教えてくれます。日々の観察力を養っていると、自分の畑の作物が何を欲しているか、ある程度理解できるようになります。毎日畑で同じ野菜を見ていると、生育ステージによって野菜に変化が起きていることにも気づくでしょう。毎日10分でも15分でも、いつも同じ時間に作物を見てみましょう。作物は必ずあなたに話しかけてくるようになります。
・土壌分析が必要な理由
観察することでさまざまなことを理解するためには、自分の畑の土の状態がきちんとわかっていることが必要になります。その状態を知らなかったら。たとえば、カルシウム欠乏症が出ているからと、単純に石灰を散布してしまったら。単に水分が足りなくて欠乏症が出ただけかもしれません。もしもカルシウムが過剰だったら、石灰を投入することで、より過剰な状態になってしまいます。それによって塩基飽和度が上がれば、土壌バランスが狂い障害が発生する可能性もあります。
土壌分析は栽培の羅針盤のようなもの。その羅針盤をもとに、どのように舵を取るのか、またどこでスピードを上げるのか。それを判断するのが生産者の腕の見せどころ。その力を培いましょう。
日々何が起きているか五感を働かせて観察していると、日々新しい発見をするでしょう。作物に何が起きているかわかるようになるでしょう。そして、症状が出る前、兆しが見えたところで対策が打てるようになれば、より良い作物を作ることにつながります。
農業のおもしろさや醍醐味は、日々進歩できること。どんなに経験を積んでも、新しい発見があることだと思います。有機農業はその喜びを存分に感じられる農業ではないでしょうか。