・有機農業ってどんな農業?
植物の生育には、チッソ・リンサン・カリの三大要素の他に炭素・水素・酸素・イオウ・カルシウム・マグネシウムの9つの多量必須元素、ホウ素・マンガンなど7つの微量要素が必要と言われます。
1961年の農業基本法改正以降、日本では化学肥料を使用した効率的な農業、単一栽培を基本とする大規模集約化がすすめられてきました。化学肥料は堆肥などの有機質肥料と違い、作物に吸収されやすく、即効性があるため、効果的に使用することができます。当時のことを生産者に聞くと「化学肥料が出たときには収量が上がって夢のようだった」と言います。それまでは肥料を自給していた農家が、お金を払ってでも欲しい肥料なので、化学肥料は「金肥」とも呼ばれました。堆肥や有機質肥料を与えたときと比べて、農業生産は飛躍的に向上したのです。
しかし、それまでは堆肥を投入しいろいろな野菜を作っていた畑で、同じ作物を長年作り続け、手間がかかるからと化学肥料のみを使用し続けた結果、土壌病害が多発するようになりました。そんなことが起きるなど誰も気がつかなかったのでしょう。肥料が多い状態などそれまでに経験したことがなかったからです。そして、病害虫が増えるにしたがい、連作障害などで生産量も減ってきてしまいました。
現在では、同じ作物を同じ畑で作り続けると、特定の微生物のみが繁殖し、病気の多発や収量の低下などの連作障害が出ることが知られています。これらを防ぐために、土壌消毒剤の使用・農薬の使用が推奨されました。しかし土の中の微生物を絶滅させる土壌消毒剤の使用は、微生物を殺してしまいます。最初はうまく機能するのですが、徐々に微生物バランスが崩れてくるため、土壌病害がなくなることはありません。また、農薬の多投はかえって病虫害を発生させることなどがわかってきました。
完璧なものに思えた薬品にも限界があり、かえって害を及ぼすことがあるのに気づいた生産者が選択したのが「有機農業」でした。
・なかなか構築されない有機農業の技術
有機農業が生まれて50年弱になります。試行錯誤しながらそれぞれの生産者が独自の技術を磨いてきた有機農業ですが、それらの技術は「その畑でならいいけれど、他の人の畑ではうまくいかない」ものがほとんど。よく「あなたの畑では良くても、わたしの畑ではダメ」と言われるのは、地域によって土質も気候も違うから、ということがあります。有機農業技術を推進するために生まれた「有機農業推進法」が施行され、すでに10年以上経ちますが、一般的な有機農業技術が構築されたとはいまだに言いづらい状況でもあります。
新規就農する若い人たちが、やるのなら「有機農業」を選択したいと考えているというアンケート結果があります。しかし、就農後、有機を目指しても、技術が追いつかずに挫折してしまうことも多いのです。これは非常に残念なことだと思います。毎年「有機農業技術の構築を」と有機農業の推進会議で問題点として挙げられますが、やはり、地域も気候も違うさまざまな畑での共通の技術はありません。それぞれが経験を積みながら、少しずつ自分の技術を作っていくしか無いのです。
しかし、最初からやみくもに有機農業をスタートするのではなく、農業の基本をきちんと押さえ、知識を得てからスタートすればどうでしょう。例えば、自分の畑の土のバランスがわからないまま堆肥を入れ、いきなり有機農業を始めた場合と、どんな土かを把握した上で肥料を設計して栽培した場合。失敗する可能性は前者の方が高いでしょう。そのような失敗を避けるために、基本的な知識が必要なのです。
・良い土づくりへの長い道のり
有機農業を行う上でとても大切なのは、微生物です。1gのなかに1億いるという微生物が作物に与える影響は、まだはっきりとわかっているわけではありません。微生物の中には、作物と共生し作物の成長を助けるものがいます。また、微生物が有機物を分解する過程で植物ホルモンが生成されたり、肥料成分を吸収できる形に変えたりすることがわかっています。
しかし微生物のこのような働きは、有機物を土壌中に入れなければ期待はできません。化学肥料のみで作物を栽培していくと、いずれ病害虫が多発するように、無機的な肥料成分のみ与えれば作物ができるわけではありません。必要なのは、有機物を土壌に戻し、微生物のエサやすみかをつくり、微生物相を豊かにし、さらに土壌バランスを整えること。これが健全な作物を作ることに繋がります。また、有機農業の基本的な考え方とも言えます。
農薬に頼ることなく作物を栽培するためには、良い土が必要です。そのため、有機農業には「土づくり」が欠かせません。さらに自分の畑の状態を見極めるための観察力も必須です。
どんな作物でも、その季節に一度しか作れません。農業とは一年に一度しか経験が積み上げられないむずかしい仕事。そんななかで経験がショートカットできるわけではありませんが、基礎的な知識を持っていれば強みにもなります。農業を始める前に必要なこと。それが土づくりの基礎知識です。