・微生物の大切な役割
毎年毎年同じ圃場で同じ作物を栽培し続けると、作物がうまく生育しなくなる連作障害が発生します。連作障害とは、同じ作物を栽培し続けることで特定の微生物しか生息できない環境が作られたり、植物から分泌された化学物質が結果的にその植物が生育しづらい環境を作ったりすることで発生するもの。化学肥料のみに頼った農業を続けると腐植分を失い、微生物相が貧弱になると考えられています。
連作障害の解決法は一般的には化学的な対処方法で行われます。微生物を絶滅させる土壌消毒剤で一時的に畑を無菌状態にし、作物を栽培することで連作障害を抑えることができます。土壌消毒剤は一時的に病虫害を減らすことができますが、農薬の散布回数を減らせるかというとそうでもありません。食べたり食べられたりの微生物の生態系が崩れた土では病害を抑えることができないのです。
作物に悪い影響を与える微生物が繁殖し、それを食べるものや抑え込むものがいなければ、病気が蔓延します。土壌消毒はかえって土壌中の病害を増やすことにつながり、結果的に農薬の散布回数が増えることにつながったりもします。
いまだにどのような働きをしているのかわからないことが多い微生物ですが、農業では非常に大切な存在。最近では今まで知られていなかったさまざまな役割を持つことがわかってきました。
・豊富な微生物相が良い作物を作る
たとえば、畑で病気が蔓延したとします。病気の原因は細菌、カビ、ウイルスなどですが、同じように作物を栽培していても、全く病気が出ない畑もあります。それは偶然ではありません。病気を発生させるのも、病気を発現させないのも、土の中にいる微生物が影響しているのです。
1gの中に1億いるといわれる微生物には、それぞれに拮抗関係にあるもの、捕食関係にあるものがいます。食べたり食べられたりしつつ組成を常に変化させています。なかには乳酸菌のように、制菌作用をもつ微生物もいます。微生物相が豊かであればあるほど、特定の菌が作用することが難しくなり、作物への悪い影響が少なくなることが知られています。つまり大切なのは微生物の多様性なのです。
作物に悪い影響を与える菌がいても、症状を発生させることができなければ、あるいはしたとしても少しだけなら問題ないとも言えるのです。そしてそれが可能になるのが「有機農業」でもあります。
有機物の投入は、微生物を増やすための最も有効な手段です。有機物を分解する過程で、放線菌やトリコデルマ、バチルス、麹菌、乳酸菌などのまざまな微生物が繁殖します。乳酸菌は菌の活動を抑える能力に優れており、その他の菌も病害の原因になる菌を食べてくれたりします。こうして微生物と腐植が増えてくると、土の団粒構造が作られ、俗にいうふかふかの土になっていきます。植物は土の中いっぱいに根を伸ばすことができるようになり、土の保水性や通気性が増してきます。団粒の間を空気や水が行き来し、健全な植物が育つようになります。
作物が健全に育つための土壌条件、微生物相の組成のことを「生物性」と言います。
・ものすごく大きな微生物の力
微生物相が豊かになってくると、連作障害が起きなくなったり、チッソ分などの肥料を与えなくても、作物が栽培できるようになったりします。わたしが取材した能登のトマト農家、西出隆一さんのトマト畑は、20年以上トマトを作り続けていますが、連作障害は全く起こっていません。これは、微生物相が豊富なことが理由と考えられています。
また、土中の微生物は、作物にアミノ酸を供給したり、土と結びついているリン酸を分解して作物に供給するため、微生物相の豊富な畑では肥料分の供給が不必要になることがあります。この状態になった土からは、ほんとうにおいしい作物が生まれます。そうなるにはかなりの年月が必要ですが、病害虫も少なくなり、まさに理想の土ができあがるということでしょう。しかしそうなったとしても、有機物を供給することをサボってはいけないのです。微生物のエサとすみかは、常に供給することが求められます。
このような土の生物性は一朝一夕では整えることができません。そこで自分の畑にどのような微生物がいるか知りたくなりますが、分析をしても一部の微生物の存在しかわからないため、高額な費用をかけて分析する必要はありません。また、微生物資材に頼るのも、経費がかかるけど効果がわからないことが多いものです。生物性が整っているかどうかは、作物にひどい土壌由来の病害が出るかどうかで判断します。堆肥、ぼかし肥料、その他の有機物を投入し、気長に微生物相が整うのを待ちましょう。